東京地方裁判所 昭和63年(ワ)9617号 判決 1988年12月23日
反訴原告
鈴木康之
反訴被告
中佐藤達美
主文
一 反訴被告は反訴原告に対し、金三万八三四〇円及びこれに対する昭和六三年七月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は五〇分し、その四九を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。
四 この判決は一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 反訴被告(以下「被告」という。)は反訴原告(以下「原告」という。)に対し、金二二六万二六三七円及びこれに対する昭和六三年七月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生(以下、次の事故を「本件事故」という。)
(一) 日時 昭和六二年一二月二四日午前五時一〇分頃
(二) 場所 松戸市五香六実一三番地一一一先路上
(三) 加害車両 中佐藤久美子運転の軽乗用自動車(以下「被告車」という。)
(四) 被害車両 原告運転の普通貨物自動車(以下「原告車」という。)
(五) 事故態様 停止中の原告車に被告車が追突した。
2 責任原因
被告は被告車を自己のために運行の用に供していた。
3 原告の受傷及び治療経過
原告は本件事故により外傷性頸部症候群の傷害を受け、滝不動病院で昭和六二年一二月二五日から通院治療を受け、昭和六三年七月一五日現在なお通院治療を受けている。
4 損害
(一) 治療費(昭和六三年六月三〇日まで) 六〇万二五〇〇円
(二) 通院交通費(昭和六三年六月三〇日まで) 一三万四二六〇円
(三) 文書料 八〇〇円
(四) 休業損害 一五八万九三八三円
原告は一日あたり一万〇六六七円の収入があつたが、本件事故による傷害のため昭和六二年一二月二五日から昭和六三年六月三〇日までのうち一四九日間休業し、収入が得られなかつた。
(五) 慰藉料 九三万〇〇〇〇円
(五) 損害の填補 一二〇万〇〇〇〇円
(六) 弁護士費用 二〇万五六九四円
よつて、原告は被告に対し、損害金二二六万二六三七円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六三年七月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1及び2の事実、同3のうち通院の事実並びに同4(五)の事実は認め、その余は否認する。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。
理由
一 請求原因1(事故の発生)及び2(責任原因)は当事者間に争いがない。
二 そこで請求原因3(原告の受傷及び治療経過)について判断する。
1 原告が滝不動病院で昭和六二年一二月二五日から通院治療を受け、昭和六三年七月一五日現在なお通院治療を受けていることは当事者間に争いがなく、右事実と成立に争いのない甲第六号証並びに乙第四及び第六号証、原本の存在と成立に争いのない甲第三、第四及び第七号証並びに乙第二号証、それぞれ昭和六二年一二月二八日に原告車及び被告車を撮影した写真であることにつき争いがない甲第一号証の一、二及び第二号証の一ないし三、証人中佐藤久美子の証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) 本件事故は、被告車(軽乗用自動車、車両重量五八〇キログラム)が路面にこぼれていた油にスリツプし、制動をかけたが停止せず、信号で停止していた原告車(キヤブオーバー型貨物自動車、最大積載量一〇〇〇キログラム)に追突したもので、本件事故により原告車は荷台後部フレーム凹損、鉄製の足掛けが内側に曲がる等の損傷を受け、被告車はボンネツト全体がゆがむ等の損傷を受けた。
(二) 原告(昭和二六年一二月一日生まれ、本件事故当時三六歳)は、本件事故後に頸部の痛みを感じ、昭和六二年一二月二五日に船橋市南三咲四丁目(滝不動駅前)にある滝不動病院で診察を受けた。初診時の原告の主訴は頸部痛、上肢のしびれ等であり、知覚鈍麻脱力、根症状がみられ、スパークリングテスト、テンシヨンテスト、ジヤクソンテストの結果はいずれも陽性であり、外傷性頸部症候群と診断されたが、頸部レントゲン検査では異常はなく、ボリネツク及び投薬治療が行われた。
(三) 原告は、その後同病院に同月二八日、三〇日と通院を続け、昭和六三年一月四日の診断では根症状は消失した。原告の症状はその後、頭痛、頸部痛が主体となり、同病院に同年一月中は一六日、二月中は二二日、三月中は二四日通院したが、症状は同じ様な状態が続き、治療は介達牽引や薬の投与が継続された。さらに、原告は同病院に、同年四月中に二二日、五月中に一九日、六月中に一五日通院をしたが、病院ではほとんど介達牽引を繰り返すだけで原告の主訴には変化がなく、同年七月中に一〇日通院し、同年八月一日、三日と通院した後、原告は病院で治療を受けなくなつた。なお、原告は同年七月一五日には、寝違えたとして異常感覚、項部の重い感じを訴えた。
2 右認定事実によれば、本件事故はごく軽微な事故というわけではなく、原告に対してある程度の衝撃力があつたと推認でき、また、初診時のいくつかの検査でも陽性であつたのであるから、原告は本件事故により外傷性頸部症候群の傷害を負つたものと認められるが、原告の症状は初診時から数回の通院をした後は頸部痛等の神経症状だけであり、これを裏付ける他覚的所見がなく、原告の主訴にも何らの変化がないことから考えると、本件事故による原告の傷害を原因とする症状は本件事故から約六か月を経過した昭和六三年六月まででほぼ消失したとみるべきであり、1で認定した滝不動病院通院についても本件事故と相当因果関係があるのは昭和六三年六月までに限られるというべきである。
三 すすんで、請求原因4について判断する。
1 治療費、文書料 六〇万六三〇〇円
昭和六三年六月までの治療費及び文書料は、成立に争いのない乙第三号証及び乙第五号証の一、二並びに原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の一ないし八二によれば、六〇万六三〇〇円と認められ、右は本件事故による損害と認められる。
2 休業損害 〇円
原告本人尋問の結果(後記信用できない部分を除く。)及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第八号証(後記信用できない部分を除く。)によれば、原告は加藤宏に雇傭され、主として二和向台駅前にある喫茶店で営業管理の仕事をしていたことが認められるところ、右乙第八号証には原告が昭和六三年三月一日から同年五月三一日まで欠勤し、給与を支給されなかつた旨の記載があり、原告は本人尋問において本件事故による傷害のために勤務ができなかつたと供述している。しかしながら、<1>原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第七号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告の自宅は本件事故当時は東京都荒川区に、後には東京都足立区にあり、いずれからも滝不動病院までは相当の距離があつて、バスや東日本旅客鉄道、新京成電気鉄道を乗り継いで行かねばならないのに対し、原告の勤務場所である二和向台と滝不動病院とは電車で二駅に過ぎないことが認められ、<2>前記認定のとおり、原告の症状は昭和六三年一月以降は頸部痛等の神経症状だけであり、喫茶店営業の仕事が全くできないほどの重症とはみられず、右の点に照らして考えると、乙第八号証の前記記載及び原告の前記供述はたやすく信用することができないというべきである。他に、原告が本件事故によつて休業したことを認めるに足りる証拠はない。したがつて、休業損害は認めることができない。
3 通院交通費 二万九〇四〇円
2で認定した事情によれば、通院交通費は原告の勤務場所と滝不動病院間(二和向台・滝不動間)で認めるのが相当というべきであり、往復二四〇円の一二一日分(昭和六三年六月三〇日までの通院日数)である二万九〇四〇円となる。
4 慰藉料 六〇万〇〇〇〇円
原告の傷害の内容、通院期間等諸般の事情を考慮すると、慰藉料は六〇万円が相当と認める。
5 損害の填補 一二〇万〇〇〇〇円
損害の填補として一二〇万円が支払われたことは当事者間に争いがない。
6 合計(1+2+3+4-5) 三万五三四〇円
7 弁護士費用 三〇〇〇円
弁論の全趣旨によれば、原告は本訴の提起及び遂行のために原告代理人を委任したことが認められるところ、認容額等を考慮すると弁護士費用のうち被告に請求できるのは三〇〇〇円が相当と認められる。
四 結論
以上の次第で、原告の請求は三万八三四〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六三年七月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中西茂)